2002年
某月某日

 平日の夜9時過ぎ。家でテレビを見ながらボケ〜っと過ごしていたら電話があった。友人のKからだった。Kは勤め先から携帯電話を支給されているのだが、それとは別の個人携帯から電話をしているようだった。
「Kazさん、今週時間取れますか? 5分か10分でいいので、ちょっと見せたいモノがあるんですよ・・・」
 Kとは留学経験者同士と言うことで、非常に親しくしている間柄。アメリカ留学の経験があるKとは、お互い日本人でありながら、たとえ顔を合わせても英会話を貫き通すという、ある種特異な間柄でもある(笑)。最近こちらから飲みに誘っているのだが、なかなか応じてくれないという状況が続いていた矢先の出来事だった。そんなKからの誘いだった。断る理由などない。まして、うちの部署はこれまでないほど暇な状況が続いていて、連日7時台に退社出来ていたのだ。
「ほな、水曜日に川崎で飲みましょうか?
そんな誘いを断ったのはKだった。仕事に戻らなきゃいけないとか、8時から約束があるからとか、とにかく忙しいらしい。しかもKは喫茶店で話すことを希望している。こっちは川崎駅周辺というと飲み屋かフィリピンパブくらいしかしらない(苦笑)。結局、わしが品川まで出ることにした。なにより、深刻な声のKが「見せたいモノ」というのが非常に気になったのだ。時期が時期だけに、退職届か、アメリカ企業からのofferなのかもしれない・・・。
 そして水曜日。YahooBB勧誘の声が響く品川Wingの前でわしらは落ち合った。近くの喫茶店に入ったが、Kの様子はいつもと変わらない。あくまでマジメだが、時々下ネタを交えたりするそのキャラクターに、心配事などなさそうな雰囲気を感じ取った。どうやら、リストラではなさそうだと安心した。

 「どうよ、最近は? そんなにヒマで大丈夫?」
軽妙な語り口でKは会話を始めた。お互い、リストラが身の回りで起こっており、将来が全く見えない状況にかなりの不安を抱いているという話から入った。俺もKも、それぞれ仕事が忙しく、プライベートで問題を抱えており、そんな状況でありながらいつリストラされてもおかしくない状況と言うことで話は盛り上がった。もっとも、これがコーヒーではなく酒だったら、どんなに楽しいかと思ったが(苦笑)。そしてKが話を切りだした。
「そんな、将来が見えない状況出、安定した収入が得られるということで、こういうモノを見せたいと思って持ってきたんですよ」
見せてくれたのは、A4サイズ見開きのパンフレット。表紙には"B○gPl○net"なるタイトルが。中には、その"B○gPl○net"というWebsiteのイメージみたいな画面と、そのロゴを取り巻く一流企業の名前、そして、世界地図に国旗をちりばめて、「全世界で展開」という解説が。

「これがなにか?これだけじゃ、全然わからないんですが・・・」
俺の質問にKは得意げに言った。
「でしょ? でもプレゼンを聞いたら全てがわかるんですよ。これはインターネット上でビジネスを始めるモノで、まだ日本に上陸したばかりなのですよ。これからどんどん拡張していこうと言うことで・・・・」
そこまで聞いても理解出来なかった。さらにKは続けた、
「僕も、最初は眉唾物だとは思ったんですよ。でも、これだけの有名企業 (SunCisco@Niftyなどなど)が提携してるんですよ。これはホンモノだと思いましたね!」
たしかに、有名企業のロゴが並べられているとホンモノっぽく見える。しかし、Ciscoのロゴが古いのはなぜだ!? さらにKは続けた、
「いや、これが本当に怪しいモノだったらKazさんに勧めません。自分でやってみて、これは本当にすごいと感じたからこそ勧めてるんですっ!」
その気持ちは非常にありがたい。そりゃ、お買い得な情報があったら、なによりも自分の親友に伝えたいだろう。でも、この場合はちょっと違うんでないかい? 話を聞いてみると、Web上でインターネットストアを開くのだそうだ。Kもすでに一つ開いているらしい。そこで俺は聞いてみた、
「で、Kさんはなんのお店を持ってるんですか?」
Kはあっさりと言った、
「あらゆるものですよ。(B○gPl○netのカタログを指して) ここにある全ての品物です。」
ここで俺は思った、
「あの・・・、それだったら会員全てが同じ商品を扱うことになりますよね? 普通同じ商品を扱うなら、絶対に競争が生まれないといけないんですが、その辺はどうなってるんですか? そもそも品物を仕入れたりしてるんですか? 店の独自性は?」
だいたい今時インターネットショッピングなんて、アマチュアカメラマンでさえ自前の写真を売りさばいているほどだ(爆苦笑)。そんな質問にKは、
「いや、その辺は全てプレゼンを聞くことで明らかになるんですよ」
K曰く、その「プレゼン」とは木曜日と土曜日に渋谷の東武ホテルで開かれるらしい。今日は水曜日。すなはち明日だ。俺は言った、
「ほな、ちょっと調べさせて貰いますわ。その上で返事させて貰います」

 家に帰って、さっそくホームページを見た。なるほど、いかにもいろんな有名企業が出店してるように見える。なんと、Appleへのリンクもあるじゃないか! そこには、あたかもAppleが提携しているかのような書き方がしてある。しかし、そこに書かれているのは単なるリンクと1-800-APPLE-1の電話番号。しかも使われている画像は、5色時代の旧iMac DV。別のページにはApple Storeのバナーが貼ってあるが、これが縦横比がめちゃめちゃで、輪郭にドットが浮き出てる (-_-;。ブランドイメージを大切にするAppleが、こんないい加減なバナーの貼り方を認めるわけがない。続いてgoogleサーチ。出るわ出るわ。結局アメリカ発のマルチだった。半ばあきれていたら、Kから電話があった。
「調べてみてどうでしたか? 明日のプレゼン来ませんか? 病院? そのあとで渋谷まで出てこられませんか? 人数は20人くらいですよ。」
ちょっと強引な勧誘に辟易したが、Kのいう「プレゼン」というのは、つまり「セミナー」だ。しかもKは木曜日も土曜日も行くという。単なる説明会なら何度も足を運ぶ必要などあるわけがない。そのうえKは、
「昔は、携帯電話も『ショルダーホン』なんて言われてだれも使ってなかったじゃないですか。それが今や子どもでも持ってるんですよ。このビジネスも数年後には誰もが当たり前に参加するようになるんですよ。」

 結局断ったが、Kがどこまでのめり込んでいくのか、ホントに金儲けが出来るのか、非常に心配な今日この頃だ。


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